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Prompt Columns

ゲーム小説の問題点

 Written By  alt-X
 
  いやいやど〜も、はじめまして。おもにコンピュータ系の出版業界の隅っこに身を置いて細々と生きる、しがないモノカキalt-Xでございやす。 故あって名前は伏せさせていただきますが、その辺どうかごカンベンを。ええ、ちょっとばかりABCの人にお呼びがかかったので、ゲーム小説につ
いていささか駄文をものさせて頂きやしょう。
 なぁに、なぜ拙の駄文が匿名で書かれてるのか、そりゃ以下の文を読んでのお楽しみってこでひとつ。へっへっへ。
 
 さぁて皆さんは、ゲーム小説ってのをご存知でしょうか。こりゃ文字通りゲームを小説にした奴なんですが、世間一般じゃあゲーム小説にゃあロクな
ものがありゃしねぇと言われております。丁度去年の今ごろ、ゲーム小説を書かれたいさき令衣センセイも、その本の出来のあまりのマズさに怒った
読者や同業者にギュウギュウと吊し上げられて、ついには御自身の掲示板で大自爆発言をされてましたなぁ。
 でも、ですな。まぁ1年も経った今だから言えるんでやすが、ゲーム小説というかここからはもうもっとハッキリと版権小説と言わせてイタダキやす
が、これはもう面白い小説なんてどこをどう見ても出てきそうにない鉄壁の構造になっちゃってるんでやすよ、エエ。

 まず、小説を書く前にゲームの設定資料集を読み込まなきゃなりません。
 次に、小説のスクリプトをゲーム会社に提出します。そこで、実は王子と騎士団長がホモ関係だとかいう裏設定や作家センセイが色気出したナント
カの剣の真の発動みたいなオリジナル部分を、ゲームと関係無いって言ってガンガン削られたりしちゃうんですな。
 で、そこで出来たスクリプトに沿って原稿用紙250枚から300枚ナリの小説に仕上げるってわけです。
 大変なのはこれだけじゃありませんや。版権商品ってのは基本的に生鮮食料品みたいなもんで、旬のうちにどれだけ商品を投入するかってのが命
です。んでこの版権小説もそういった版権商品であるっていう宿命からは逃れようがないわけですな。
 つまり、いつまでに完成させていつまでに発売しなけりゃならないってのが恐ろしくガチンコに決まってるわけです。
 
 次の問題は、おアシが安いってことです。
 版権小説を書いた場合、印税はだいたいオリジナル作品の半額ってとこでしょうか?
 こりゃもちろん出版社がケチってるわけでも……まぁ、ある場合も少なからずではありやすが、それ以前に印税の半分は、そのゲームを発売した会
社の取り分になっちゃうわけですわ。だから安いんですな。
 でもゲームの版権小説って売れるんじゃないの? と思われてるかもしれませんが、そりゃあドラクエやサクラ大戦やセンチメンタルグラフィティなん
てビッグタイトルのノベライズをやらせて頂けるんなら印税半分払っても充分以上に引き合いますよ。
 だからそういうおいしいA級版権小説のノベライズは、有名作家やシナリオライター本人がやってるじゃないですか。つまりはそういうことです。

 でもゲーム会社だって、版権小説でボロ儲けなんて考えちゃいませんよエエ。
 基本的に、ゲーム会社は版権小説をファンサービスと考えていて、出版にいたるためのアレコレの協力に比べれば印税だって企業が受け取るにし
ては微々たるものです。つまり、手数料レベルとしか考えてないわけですな。ここまでは美しい話です。
 ただここでほぼ純粋に販促物レベルの捉えかたしかしていないために、本が売れなくてもべつに構わないから自分たちの都合がいい内容にしよう
という意識が働くわけですよ、これが。設定資料集に書いてある事を全部使えとかいう形の圧力になるわけです。
 
 最後の問題は、やはりゲーム小説は版権商品だという事です。
 小説そのものの出来が良かろうが悪かろうが、買うのはゲームのファンだっていう事実には微塵の揺るぎもありゃしないんですよ。小説の出来がど
れほど良かろうが悪かろうが、その原作にどれほどのバリューがあるかって問題の前には無いも同然ということになってしまうわけです。
 だからカス版権でいくら頑張っても、優良版権をもとにハナクソほじりながら1日で書いたものには絶対に勝てないと。こんな風に、本を出す前から
売れ行きが分かっちゃうがゆえに作家センセイのやる気はガッツンガッツン削ぎ落とされるってことです。
 
 とまぁこういう風に、版権小説ってのはキツい安いめんど臭いというヘレンケラーの三重苦に匹敵するような環境で産み出されてるわけです。
 出版社だって、ドラクエやサクラ大戦の小説だけ出せてりゃいいんですが、暇なときも編集者を遊ばせるわけにはいかないわけです。だから、何で
もいいからとにかく版権小説を創り続けちゃうという悪循環が発生するんですな。
 こんな三重苦の条件を呑んでくれる作家なんて、滅多にいません。
 だからとりあえず版権もとのゲーム会社の言う通りのモノを、決められた納期までに、ギャラの安さを覚悟して書いてくれるんだから内容的にかなり
アレなものになっていても文句を言えないわけです。もっと面白くしたほうが売れるよ、という言葉が空しい世界なんですね。
 
 で、こういう現実の上にいさき令衣掲示板の戦いが起こってしまったんだと拙は愚考するんですな。
 こんな条件でも、それでも読者に対する落とし前としてクオリティを上げるのが筋だという理想と、これ以上ギャラを超えたオーバーワークは勘弁し
てくれという現実の相克だったんじゃないですかねぇ。
 ABCの人いわく、このときの方は御自分でもゲーム小説を書かれる方だったようですから、その結果としての質に憤りを感じるのは心の底からよく
分かります。本当に、これは心の底から嫌味でもなんでもなく思ったんですが、いさきセンセイをかばった編集者の方を怒るぐらいなら、そのいさきセ
ンセイを庇わなければならない編集者の方の気持ちも察して

「おれはいさき令衣センセと同じ条件で、少なくとも同程度には速くて安くてなにより上手い

ということを編集者の方にアピールしてれば、一番幸せだったのではないかと考えたりするわけですな。
 心ある方が、この困難な状況の中で少しでも版権小説の質を上げて頂ければなぁ、拙ももうちょっとばかり生きやすくなるんでゲスが。 
 



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