翻訳: 西から東、東から西


洋の東西を問わず

面白いものは面白い・・・のである

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「新しく翻訳のコーナー立ち上げました。イギリス在住の美貌の女性が頑張ってくれます


 The Cruise

David L. Hayles


Thursday

出航。ほんとにひどいお天気。ジョンはすぐ船酔いにかかってしまって、船室でじっと休んでるしかなくて、かわいそうだったわ。トップデッキの海の見える部屋に、変えてくれるように頼んだのもだめだったし。ジョンが広場恐怖症(閉所恐怖症の反対)だからかしら。

そうそう、ランチもひどいもんだったわ。後で気持ち悪くなったし。ラザーニャの野菜が悪かったのね、きっと。あれは、どうしたってきちんと料理したんじゃなくて、ただ温めなおしただけだったもの。

払った費用のこと考えたら、苦情のひとつだって言いたくなるわよ。まあ、土曜の食事はキャプテンのテーブルにご招待しますって言ってくれたんだから、それ以上言うと添乗員さんに悪いわね。

午後ギフト・ショップで知り合ったダービーからのご夫婦と、後で一杯ご一緒しましょうって約束してたんだけど、ジョンはまた具合が悪くなってしまったから、ひとりで出かけるしかないわ。

 

Friday

今朝起きると、体の脇のところがひどく痛んで、医務室で見てもらうと、やっぱり青あざができてたわ。昨日カクテルバーで、船がひどく揺れた拍子に、ピアノにぶつけてしまったせいね。ドクターに、旅行保険を請求できるかどうか聞いてみたけど、やっぱり詳しい事は保険会社に聞くしかなさそうね。

でもその事故以外は、昨日の夜はけっこう楽しかったわ。バーの名前はHappy Hourっていったかしら。ショーもやってたし。

でもあの歌手よりは、絶対あたしの方が上手いと思うのよねえ。ジョンは、あたしがお風呂で歌ってると、お隣のお家で猫でも虐待してるんじゃないかって、思わずRSPCA(動物愛護協会)に電話しそうになるなんて、ひどいこと言うけど。

ひとり£1500なんですもの、このクルーズ。それなりのシンガーを期待しちゃいけないのかしら。そういえば、テレテキストのlast minute 料金で、£399も安くこのクルーズに参加してるご夫婦もいらっしゃるのよね。

なんかずいぶん損しちゃった気がするわ。あたしたちなんか、ずっと前から予約してたのに、海の見える部屋さえとれなかったんだもの。ジョンの広場恐怖症のせいかもしれないけど、それでもやっぱりすっきりしないのよね。不公平すぎるっていうか・・・

このクルーズから帰ったら、マジで旅行社に手紙書こうかしら。ううん、書くんだったら、やっぱりアン・ロビンソンよね。そうすればすぐテレビ局が番組つくるわね。

ジョンはまだ具合が悪くてベッドで横になってるけど、それほど心配しなくてもいいみたい。暇つぶしになるように、本を一冊買ってきておいてあげた。

そういえば、ジョンが、ボイラー室の臭気が換気扇から入ってきて、それもだんだんひどくなってきてるって言ってたけど、ほんとにどうして、正規の料金で早くから予約した人が下のデッキで、滑り込みの格安料金で参加した人が上のデッキの部屋を取れたりするのかしら。交換してくれるのが当たり前だと思うわ。

 

Saturday

今日はキャプテンのテーブルで食事。ジョンの調子も何とかいいみたいで、ほんと良かったわ。こんな名誉なことを逃してたまるかって言ってたんですもの。でもキャプテンとあたし達の3人だけかと思ってたら、全部で20人くらいのテーブルだったのね。

あたしは、‘キャプテンがここにいらっしゃる間は、誰が船を操縦してるんですの?’ってお聞きしたり、ジョンはこっそりあたしに、‘CMとは全然違うじゃないか’なんて言うのよ。CM って何のCMよって聞きなおしたら、Birds Eye のフィッシュ・フィンガーのあの船長ですって!

食事はほんとに申し分なかったわ。なのに、ジョンはやっぱり具合が悪くなって、メイン・ディッシュの最中に席を立たないといけなくなってしまった。サルモネラ菌にやられたんじゃないかなってジョンは言うんだけど。

サンデッキで、あのダービーからのご夫婦に会ったから、またご一緒しませんかって誘ったんだけど、何だか気乗りがしないみたいだった。多分、あたし達がキャプテンのテーブルで食事してるのを見かけるか何かして、気後れしちゃったんじゃないかしら。

午後からは、ホェール・ウオッチングっていうことだったけど、結局何も見えなかったから、ベッドで青い顔してるジョンにも話しやすかったわ。

 

Monday

ここ何日かずっと雨が続いている。外に出られないのはまだ我慢できるけど、ジョンがトイレをつまらせちゃって、とにかく臭いがひどい上に、ボイラー室が真下なもんだから、部屋全体がまるでサウナのような暑さで、ほんとに何てことなのかしら。まともに息もできやしない。何でも下水が逆流して、あちこちの部屋でトイレがつまってるっていうのに、修理を急いでる様子は全然ないし、もうホリデイどころじゃなくなりそう。何とか1日でも早くトイレがなおって、天気も回復してくれるといいんだけど。

 

Tuesday

雨はまだやまない。スペシャル・ランチということで、カリビアン・ミュージックとカリビアン料理のサービスがあったけど、ただ、ただひどいだけだったわ。

あのダービーのご夫婦に会ったけど、気まずそうに、あたしのことを避けてた。多分、格安料金で参加してて、あたしが部屋のことで不満をいってたのを、添乗員さんから聞くか何かしたのね。

 

Thursday

結局せっかくのホリデイもだいなしになってしまったわ。ドブにお金を捨てたのと同じね。添乗員さんに費用の払い戻しを請求できるかどうか聞いたら、事故と病気以外はだめだっていうのよね。それだったら、ジョンは出発してから、ずっと具合悪かったのに、船酔いは病気じゃないって。

あの温めなおしただけの野菜にあたったに決まってるのに、300人が同じものを食べて、他には誰も具合が悪くなったって言ってきた人がいないから、船酔いっていうことになる。もし船酔いするっていうのがわかってたんだったら、このクルーズには参加するべきじゃなかったとまで言うんですもの。

あたし達はこのクルーズのために、何年も、何年も貯金をして、セカンド・ハネムーンのクルーズだったのに。でも添乗員さんはどうしようもないの一点張りで。

じゃあ、バーで船が揺れた時にピアノにぶつかった事故はどうなの。それは請求できるんでしょって言うと、船は揺れたりしなかった、あたしが酔っぱらって自分でぶつかったって、証言してる人がいるなんて言い出すのよ。

いったい誰がそんなことを言ってるのかって問いただしたら、モールドさん、あのダービーのご夫婦ですって!それを聞いたときは、自分の耳が信じられなかったわ。

確かにあたしはあの人達と出かけたけど、それはジョンが具合が悪くて一緒に来られなかっただけで、ひとりで出かけたくて出かけたんじゃないのに。

あの人達の部屋をたずねてドアをノックすると、ご主人は蝶ネクタイを締めてるところで、彼女の方は顔にパックしてたわ。

‘どこかにお出かけなの?’

‘キャプテン主催の晩餐会よ’

‘キャプテン主催の晩餐会ですって?そんなこと聞いてないわ!’

‘旅行を予約する時に一緒に申し込まないとだめなのよ’

‘旅行社はそんなこと言ってくれなかったわ’

彼女は肩をすくめただけだったわ。

それから、どうして、あたしが酔っぱらってたなんて、言いふらしてるのか問い詰めたら、

‘それはあたしが悪いんじゃないわ。添乗員に書類を書くように言われて、それから、どれくらいバーで飲んでたのか聞かれたから、夕方からずっとだって言っただけよ’

‘どうしてなのよ。すこしくらい嘘言ってくれたってよかったじゃないの。ピアノのにぶつかったのは、あたしのせいじゃないないのに’

‘何寝ぼけたこと言ってるのよ’

だから、もうそんな話聞きたくないわ!って、そう言うと、ご主人の方が、

‘じゃあ、とっととうせろ!’

あたしのホリデイはこれでもうめちゃめちゃになってしまった。彼女がほんのちょっと嘘を言ってくれればよかっただけなのに。

 

Friday

何も書くことはない・・・

 

Saturday

ほんとにとんでもないことになってしまったわ。皆さんが気を使ってくれるから、あたしも何とか落ち着いていられるけど。

ジョンが気分もすこし良くなって、食欲が出てきたから、何か軽いものでもつまみたいっていうし、それにずっと気の滅入るようなことが続いたから、気分転換でもして、旅の最後にささやかでも楽しい思い出を残そうっていうことになって、メイン・デッキまで出かけたのに。

雨は上がってたけど、空はまだ曇ってて、床もすこし濡れてた。ジョンは、何となく足元が心配な感じで、でも、まさかあんなことになるなんて。

階段を下りる時に、ジョンがちょっとふらついて、すぐ手を伸ばして支えようとしたけど、間に合わなかった。あっという間だった。あたしが階段を駆け下りて、彼の体を起こした時には、ジョンの首は、考えられないような方向に曲がってしまっていた。

近くにいた人達が寄ってきて、ドクターを呼んでくれたけど、もう手遅れだった。即死だった。

 

Sunday

事故のことで事情を聞かれたり、色々書類も書かなければいけなかった。あたしがあやふやなところは、あの時近くにいた人達に聞いてくれるように話しておいた。

 

Monday

モールドさんは一体なんてことを!あたしがジョンを突き落としただなんて!

クルーズは取りやめになって、すぐ帰国することになった。

他の人だって、どうしてそんな馬鹿な話を信じるのか、ほんとに皆どうかしてるわ。

ジョンとあたしは、もう20年も連れ添ってて、このクルーズだって、セカンド・ハネムーンだったのよ。こつこつと貯金をして、ちゃんと正規の料金を払って。あたしが今度の事でどれほどショックだったか、あの人達はわからないのかしら。

そりゃ、確かに思ったわよ。足を滑らして捻挫くらいしてくれたら、損をした分のうちいくらかでも、取り戻せるんじゃないかって。でも首が折れればいいなんて、いくら何でもそんなこと思うわけないじゃないの。

あの時ジョンは、外に行くのは気が進まないって言ってたわ。でも、くさい臭いのする、サウナのようになってしまった部屋にいるより、外の新鮮な空気を吸えば、少しは気分も良くなるからって、あたしが強く勧めたから、気が変わって出かけたのよ。

足を滑らせた時だって、あたしは決してジョンを押したりなんてしなかったわ。ほんのちょっと指の先で突いただけじゃない。それを、あんな、まるでドードー鳥みたいに、無様な落ち方するなんて。折って欲しかったのは、足首だったのよ。首なんかじゃなかったわ。

どっちにしたって、あの人達には関係なんじゃない。どうしてしゃしゃり出てきたりするのかしら。せっかくお天気も良くなって、これからすこしは楽しくなるかしらっていう時に、ほんとにもうこれで何もかもお終いになっちゃったじゃないの。クルーズ取りやめになるなんて。


憂鬱のK:うーん、指先で突いただけですか


サー・バートランド:未完の原稿

Anna L. Aikinアンナ・L・アイキン(1743-1825イギリス)


今回の冒険も無事に終わりサー・バートランドは丘陵に向けて馬を進めていた。

‘何とか明るいうちにこの薄気味悪い荒野を越えられるといいんだがな・・’

しかし半分も行かないうちに道に迷ってしまったらしい。どう目を凝らしても見えるのは生い茂ったヒースばかり、目印になるようなものは何もない。

空には雲が重く暗く垂れこめ、時折その雲の切れ間に月が姿を現すが、それも一瞬のことですぐに又雲の陰に隠れてしまう。

その一瞬の月明かりを頼りにあたりを見回しても、目に入るのは荒れ果てた土地ばかりで、かえって心細さがつのる。

何とか自らを励ましながら進み続けはしたものの、地面と沼地やくぼみの区別が出来ないほど闇が深くなった頃には、さすがに心身ともに疲れ果て、ついにバートランドは馬を下り地面に倒れこんでしまった。

その直後だ。重苦しい陰気な鐘の音がどこからともなく聞こえてきた。かすかだが確かに明かりも見える。

すぐにバートランドは馬の手綱をとりその明かりに向かって歩き出した。疲れた体を引きずりながら、暗闇のなか足元に全神経を集中させ、一歩一歩注意深く足を進める。

ようやく明かりが手に届くほど近くなった時、バートランドの目に飛び込んできたのは、無残に荒れ果てた古い大きな屋敷だった。

正面には広々としたポーチ、建物の左右は塔になっている。明かりはその塔の窓のひとつに灯されていた。屋根や壁はあちこちが剥がれ落ち、窓も壊れ放題だ。堀にかかった今にも崩れ落ちそうな跳ね橋を渡ると屋敷の前庭に出た。

その途端、塔の明かりがすっとすべるように動き、そして消えた。あたりには死の静寂だけが漂っている。

‘嫌な感じだ’

馬をつなぎ、ポーチに上がってみる。窓から中を覗いてみるが、真っ暗で何も見えない。

‘どうしたものかな・・’

しかし、あの荒れ野に引き返すには疲れすぎているし、こう暗くなってしまっては危険にも思えた。

意を決してドアの前に立つ。ドアにはいかにも重そうな鉄のノッカーがとりつけられている。それを手に取り、ややためらいがちにノックをする。思ったよりも大きな音が屋敷中に響き渡った。が、返事はない。

もう一度、今度は前よりも強く叩いてみる。さらにもう一度。しかしやはりノックの音だけが不気味に響く。

バートランドはポーチを下り、屋敷全体が見まわせるくらいのところまであとずさってみた。すると、あの明かりがさっきと同じ塔の窓に灯ったかと思うと、たちまち消え去り、その瞬間まるで地の底からのうめき声のように鐘の音が鳴り響いた。

バートランドは思わず馬に駆け寄り、飛び乗って逃げようとして、かろうじて思いとどまった。それができたのは臆病者め!という自らの声と、抑えがたい好奇心のおかげだった。

呼吸を整え、姿勢を正すと、バートランドは片手に剣をかまえ、再びドアに向かった。もう一方の手でドアの掛け金をはずし開けようとしたが、ちょうつがいがギシギシ軋むばかりでどうにもならない。そこで肩をドアに押し当て全身の力を込めて押し開けたのだが、中に入ると同時に、ドアは背後でものすごい音をたててひとりでに閉まってしまった。

‘しまった!’

体中の血が凍るのがはっきりとわかった。案の定それからどう力をいれようと、ドアは二度と開こうとはしなかったのだ。

‘くそ!’

こうなったら仕方がない。あらためてホールを見回してみると、大きな階段と、かすかにあたりを照らす不気味な青白い光が見えた。

その光は、しかし、月明かりでもなく、ましてろうそくが灯されているのでもない。再び勇気を奮い起こし、その光に向かって一歩踏み出す。と、何と、その光はまるで道をあけるように一歩退いたではないか!

そして、バートランドを案内するかのように、階段を一段、一段上っていく。体の奥からわき上がってくる恐怖心を抑えながら、その光の後に従うバートランド。もはや自分の靴音さえこの世のものとは思えなかった。

階段を上りきり広い回廊に出ると、その光はさらにもうひとつの階段を薄気味悪く照らし、消えた。その瞬間あの陰鬱な鐘の音が鳴り響く。

‘またか。心臓でも止まったらどうしてくれるんだ。鐘の音に殺されるなんて冗談じゃないぞ、まったく’

暗闇のなかにとり残されたバートランドは、手探りで階段を上ろうとしてギョッとした。氷のように冷たい手がバートランドの左腕をつかんだのだ。それも、鷲掴みにしてバートランドに無理やり階段を上らせようとしている。

バートランドは反射的に剣でその相手に切りつけた。耳をつんざくような悲鳴が上がり、バートランドの腕を固く掴んでいた手から急に力が抜けた。恐る恐るまさぐってみると、その手の二の腕から先はなく、血が滴り落ちていた。死に物狂いでその手をもぎ取ると、バートランドは一気に階段を駆け上がった。

その階段は壊れ方もひどく、崩れた壁の石がそこかしこに散らばり、曲がりくねっている上に、上に行くほど狭くなっていき、突き当たりは鉄製の格子戸になっていた。

その格子戸の先は、四つんばいになってやっと通れるほどの広さしかなく、やはり複雑に曲がりくねっている。しかし真っ暗ではない。薄ぼんやりだが方向だけは何とかわかる。奥の方からうめき声のようなものが聞こえ、それがトンネルの中で不気味にこだまする。

最初の角を曲がったところで、バートランドの前に再びあの光が現れた。今度もバートランドを案内するように少し前を進んでいく。やがてトンネルは立派な回廊に行き着いた。

‘やれやれ年だな。腰が’

立ち上がるか立ち上がらないうちに、バートランドは剣を抜いて構えた。目の前で 鎧に身を固めた男が剣を振りかざしているのだ。バートランドに向かって突き出された片腕は血まみれで、 二の腕から先はない。

しかし、バートランドが鋭い突きを前にくりだすと、その瞬間、男の姿は消え、ずっしりした鉄の鍵が大きな音をたてて、宙から床に落ちてきた。

その鍵を手に取りあたりを見回すと、回廊の奥に大きな扉があり、あの光がやはりバートランドを招くように、その扉をかすかに照らしだしている。

鍵をまわすのにすこし力がいったが、扉は案外簡単に開き、大広間が現れた。

両側の壁に沿って、黒い大理石でできた巨大な像が並んでいる。どれもムーア人の身なりで、右手には見るからに重そうな剣をかまえている。ただ立っているのではなかった。片足を一歩前に踏み出し今にも歩き出しそうな気配だ。

‘頼むから動くなよ’

そのムーア人達に守られてか、見張られてか、中央には棺が安置されている。両側にはろうそくが灯され、弱々しい光をはなっている。

その時あの弔いの鐘が鳴り響き、突然棺のふたが開いた。バートランドは光に導かれるように棺に近ずく。が、棺まであと五、六歩というところで足が釘付けになった。

棺の中から喪服の女が起き上がり、バートランドに救いを求めるように両手を差し伸べ、同時に、不気味な鐘の音が鳴り、ムーア人達がガチャガチャと剣の音をたてて動き出したのだ。

次の瞬間、バートランドは女のもとに駆け寄り、両腕でしっかり女を守るように抱きしめた。女は顔にかかった黒いベールを上げ、バートランドに喜びに満ち溢れたキスをする。

と、足元が立っていられないほど揺れたかと思うと、すぐに建物全体がものすごい力で揺さぶられ始めた。すべてが崩れ落ち、バートランドの体も宙高く放り出された。

‘女を助けたのがまずかったか・・・’

意識はそこで途切れ、次に気がつくとバートランドは、今まで見たこともないような豪華な部屋で、柔らかいベルベットのソファーに座っていた。

数え切れないほどのろうそくが明々と灯され、クリスタルのろうそくたては眩しいくらいに光り輝いている。部屋の中央には、これも又見たこともないような贅沢な晩餐会の支度が調っていた。

‘今度はいったい何だっていうんだ’

心地よい音楽が奏で始められると、それと同時にドアが開かれ、絢爛な衣装をまとったあの女が入ってきた。たとえようもない美しさだ。美の女神でさえこれほどではないだろう。妖精たちが楽しげに、嬉しげに周りを取り囲んでいる。

その美女が、バートランドの前にひざまずき、自分を解き放ってくれた感謝の言葉を述べ、妖精たちは月桂樹の冠をバートランドの頭上に載せる。それからふたり並んで晩餐の席についた。妖精たちもそれぞれに席につく。召使達が次から次に食べ切れないほどの料理を運んでくる。バートランドは驚きのあまり言葉を失くしていた。

やがて晩餐会が終わると、妖精たちも召使たちも皆引き下がり、部屋にはふたりだけになった。女はバートランドをソファーに誘ない、そして、そっと耳元で何かをささやいた・・・氷のように冷たい微笑みをうかべながら。


憂鬱のK:うーん、確かに未完の原稿ですなあ


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