興味深いアリたち

(1)カドフシアリ

日本全土に生息するカドフシアリというアリは特殊な社会構造を持っています。北海道や本州の高山帯では女王アリではなく、働きアリによく似た形をしたアリが交尾、産卵をしているのです(下図参照)。この中間型雌は女王と一緒にコロニーの中にいることはまれです。この中間的な形態のアリがいったいどういうメカニズムで出現したのか?彼女はいったい何のためにいるのか?できる限り説明してみましょう。

中間的な雌の繁殖方法

中間的な形態をした雌は生まれたときに羽を持っていません。したがって、女王のように結婚飛行をすることが出来ません。彼女らは、毎年8月下旬から9月上旬に、巣穴からちょっと離れたところでオスを誘導するフェロモンを出し、オスを呼び寄せ、交尾をします。

その後、この雌は元々いた巣に戻り冬を乗り越えます。春になって、冬眠からさめると彼女らは巣の中にいる働きアリを何匹か引き連れて巣別れしていきます。

このように、この方法で繁殖すると狭い地域で生息範囲を広げるのに非常に適しています。しかし、この方法では遠くに飛んでいくことが出来ないために生息範囲を飛躍的に広げることは出来ません。

女王アリの繁殖方法

カドフシアリの女王アリは羽化直後には羽を持ちそれを使って、結婚飛行を行います。そこで出会ったオスと交尾をした後、羽を自分で落とし、巣穴を掘り、最初の働きアリを育てます。

この繁殖方法は他の多くのアリで観察されているものです。女王ただ一匹で繁殖しなくてはならないので、大変です。女王の死亡率が一番高い時期がこの繁殖の時期なのです。そのかわり、いろんな場所に自由に飛んでいけるので、他の女王たちと餌とか巣を作る場所をめぐってケンカする必要があまりないのが良い点です。

中間的なアリはなぜ存在するのか

カドフシアリの女王は、普通のアリの女王と何ら変わりはないように思われます。それなのになぜ、このアリには中間型の雌が誕生したのでしょうか?ぼくのやった実験では寒いところに長くおいておいたコロニーからより多くの中間型雌が生まれ、さらには女王がいるにもかかわらず、中間型雌が誕生するケースもありました。別の実験で、中間型雌を取り除いてみると、それらのコロニーからぞくぞくと中間型雌が現れてきました。

中間型雌は女王よりもだいぶ小型で、経済的です。しかも、上の実験でわかったようにいろんな条件で、ワーカー・中間型雌になる・ならない、が変化させることができるようです。これらの特徴は厳しい環境条件、たとえば、住む場所が少ないとか餌資源が限られているとか、寒いといった条件によく適応できるものと思います。

どうでしょう?カドフシアリの中間型雌がどうして存在するのか、だいたいわかりましたか?


(2)ハキリアリ

ハキリアリはその名のとおり、葉を切ります。切った葉をどうするのかというと、巣に持ち帰って、キノコを栽培するときの基質(榾木・ほだぎ・みたいなもの)にしているんです。もしかしたら、テレビや雑誌、昆虫図鑑等で目にされた方もいるかもしれません。

このアリは、数あるアリの中でも、もっとも進化した種類といっても言い過ぎではないでしょう。これに比肩しうるアリとしては、後ほど説明すると思いますが、グンタイアリとツムギアリがいるくらいです。

なんといっても、中南米で農業害虫としておそれられており、ある年のブラジルの被害額が国家予算の10%分にまで達したとか、同じくブラジルの経済担当大臣が「我々の国はハキリアリによって滅ぼされてしまう!」という声明を出したりするくらい大変なものなのです。それだけではなく、ハキリアリの巨大な巣が家を倒壊させたり、トラクターを横転させて運転手を死亡させたりと、とんでもない事故を引き起こしたりもしています。


上の写真はハキリアリAtta colombicaに葉っぱを刈り取られてしまったとある木です。だいたい1週間くらいかけて、刈り取ります。だいたいいい感じに刈ったなあ、と感じると彼女らは他の木を探し出します。


刈った葉っぱは比較的体の大きなワーカーが運びます(上の写真)。脇には、一番大きな体をしたワーカーがいて、見張りみたいな役をしています。ちなみにこの行列に手を出すと、この大きな個体が真っ先に飛びかかってくるっす。何回かこのアリの頭部を解剖したことがあるんですが、脳味噌の大きさは小さいワーカーとほとんど同じで、残りは大顎を動かす筋肉がびっしり詰まってました。つまり、彼女らは行列を乱す何者かに噛みついて、追っ払うことを生業にしているようですね。頭だけになっても、シャツから離れないですから。すごいっす。


小さなワーカーは葉っぱを切ったあと、何もしないのかというとそうでもないです。上の写真のように葉っぱの上に乗っかって(一見サボっているように見えなくもないですが)、葉っぱを持っている個体が無防備になっている隙に首のところに卵を植え付けに来る寄生バエを追っ払う役目を負っています。なかなか立派な役目ですね。


(3)グンタイアリ

グンタイアリも、ハキリアリ同様、世界で最もよく知られたアリでしょうね。

集団で狩りをするアリです。他には

  • 女王の形態が産卵に特殊化している
  • 定住しない
  • 新熱帯のグンタイアリはEctionが代表種、旧熱帯はDorilusが有名。
  • 旧熱帯(アフリカ大陸)のDorylusの方がはるかに凶暴。
  • 新熱帯にはCheliomyrmexという幻のグンタイアリがいる。

(4)ツムギアリ

これも有名っすね。

東南アジアとアフリカに生息していて、葉っぱを幼虫が分泌する物質でつなぎ合わせて、巣を作ることから、はたを織るアリ、Weaver antsと呼ばれています。


(5)カメアリ

頭部が皿みたいになっているアリがいるんです。

この皿、どう使うかというと、巣穴の入り口をペタッと塞ぐんですね。塞いで敵の侵入を防ぐのです。すごい!このアリを最初に見た時は動きがカクカクしていて、すぐに目についたっす。動きが他のアリより早いので捕まえるのが少し難しそう。林縁に主に分布していて、通常は枯れ枝の中に巣を作るそうです。


(6)アギトアリ

顔がでこぼこしていてユニークなアリです。それだけではなくて、立派な大顎を持っています。実はこの大顎が、これまでに知られている生物の中では最も速く刺激に反応する筋肉系を持っていることが知られています。


この画像は某T工務店所属の宮田弘樹氏の撮影であります。ご厚意で貸していただきました。多謝。

このアリは捕まえようとすると、大顎をパチッと閉じて噛みついてきます。凶暴な性格で、毒針も持っているし、なかなか特徴的なアリです。


(7)ファイヤーアント

アメリカ大陸、とくにアメリカ合衆国では甚大な被害をもたらしている移入種害虫です。80年ほど前にアメリカ南部の港町に入り込んで、それ以降、すごい勢いで生息域を拡大、独特の進化も遂げています。しかも、繁殖力がすごいので地元の昆虫相をことごとく破壊して大変なことになっています。


(8)ブルドックアント

オーストラリアにだけいます。


かっこいいっすねえ。ぼくが修士一年の時に先輩にこのアリの標本を見せてもらったんですが、その時はこのかっこよさがあまりわからなかった・・・。どうでしょうかね?今のぼくにはかっこよく見えます。この写真も宮田弘樹氏提供画像です。かっこいい写真ありがとうございます!

すごい大顎を持っていて、ある種は攻撃性がアリの中で最も強く、ヒトを見ると5メートルくらいの距離をジャンプして襲ってくるそうです。別名、ジャンピングアント。怖い。

一度オーストラリアに行ったときに、じっくり観察してきましたけれど、やっぱりおっかないです。バスで観光に行ったときに、ブルアントがバスに侵入、おばさんが刺されていました。痛そうだった。

それから、このアリの仲間には染色体数がn=1という、究極の極少数の種がいます。これもまた面白い。


(9)パラポネラ

世界最大のハリアリ。体調は約3.5センチ。パナマの熱帯雨林で9年前に初めてお目にかかったときは、驚きのあまり固まってしまいました。すごい衝撃的な大きさです。しかも、スズメバチ並の神経毒を持っていて、2ヶ所以上刺されると、かなりひどいショック症状を起こします。ぼくの友達も、知らず知らずのうちにパラポネラの巣の上で作業をしていて、4ヶ所刺されて、数日寝込んでいました。


(10)Nothomyrmecia

現存する世界最古のアリ。幻のアリとされていたんですが、オーストラリアのプーチェラというアデレードから来るまで10時間くらい西に行った港町のちょっとした林の中に固まって営巣していることが15年前くらいに確認されて、大騒ぎになりました(アリ学者の中で)。


これがプーチェラです。世界の果てっつう感じが伝わりますでしょうか?この写真と下のNothomyrmeciaの写真も宮田弘樹氏提供画像です。うーん、素晴らしいっす!たしか、1998年のクリスマスにサンプリングしたと思います。

ぼくも行ってきましたが、世界の果てという感じでなかなかよかったです。

行動は非常に変わっていて、

  • 低温状態で行動が活発になる
  • 完全夜行性

ということでサンプリングけっこう大変でした。

やはり、実際に間近で見てみると感慨もひとしおでした。形態的にはハリアリに近い感じなんですが、全体にメリハリがあって、アリバチに近いという感じもしました。


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