第5章 エルマノス HELMANOS

黒髪にブルーの瞳のルイスが、そのやさしい瞳でいとおしげに見つめながら、まだ幼さが残る金髪の少女、マリアの手を握っている。マリアもまた、何の疑いのない、澄んだ眼差しでルイスを見つめ返す。そして首筋へのキス、、、、。

ちょっと待ってよ。

私は心の中で叫ばずにはいられなかった。先程、1週間ぶりにルイスに会い、ベソ(頬へのキス)を交わした後、マリアを紹介してもらった。"ES MALIA, MI HELMANA"(こちら、マリア。僕の妹です)。

海外では友人同士はもちろん、家族同士でもキスの挨拶をすることは、良く知られている。しかし、兄弟で、あの至近距離で見つめ合うのだろうか、、、、。首筋にキスをするのだろうか、、、。手を握るのだろうか、、、。

私は混乱し、彼らの行動から目が離せなくなった。そんな私の心の中の葛藤をよそに、友人同士のおしゃべりはエスカレートしていく。ルイスとマリアの行動に注意をはらう者はいない。

ふと、横に座っているディエゴの足元を見ると、彼の太ももの上には女性の足が絡まっていた。ディエゴの姉、ホセの足だった。

”それって普通なの?”

自分と自分の兄の事を想像し、鳥肌が立ったところで、質問せずにはいられなかった。

”それって?” ”いや、その、兄弟で、、、その、、、キスしたり、手を握ったり、、、足絡ませたり、、、”

一瞬ポカンとした顔を見せたホセが笑いながら言った。

”私達はね、毎日、ううん、数分に一度はこうしてキスをするのよ” と言い、ディエゴに足を絡ませたまま、ほっぺたを近づけた。ディエゴは、ゆっくりとやさしく長いキスをした。”だって、愛し合っているから当たり前じゃないの。私達ファミリーよ。”

1時をまわったところで、家に着き、まだ起きていたアメリカ人のハウスメート(同居人)、マークに聞いた。”マークってシスターいたっけ?” ”いるよ” その後の質問はいささか恥ずかしかったが、勇気を出して聞いた。”あのさ、そのシスターとキスする?首とかに、、、”

”WHAT?!!!!”(何だって!)

私達は心に残る一抹の気持ち悪さを残し、お互いの部屋へと別れた。

 

注)エルマノスHERMANOS=兄弟

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