第6章 落し物

「グニュ」

ネスカフェというインターネットカフェで、毎週水曜に無料で放映される映画を見に行こうと、友人と夜道を歩いていた。

マラガに着いた時から思っていた。多分こんな感触だろう、、、、。そして、いつかは必ずこの感触を味わう日が来るだろうと。そして”その日”は、今日だった。

確認をする勇気もなく、さりげなく友人に気付かれぬよう、右足を道路にこすり付けながら歩いた。振り向くとそこには茶色の太い線が付いていた。間違いない、やってしまった。。。

治安がいいとは言えないマラガでは、引ったくりなどの話はよく聞くが、それよりもずっと身近に、恐ろしい危険が迫っている。

犬のフンだ。10Mに一つはあると思われるこの危険物をよけて歩かなければ、いっぱしのマラゲーニャ(マラガ人)とは言えない。

マラガのみならず、ヨーロッパでは、犬の糞は飼い主が始末するというモラルはもち合わせていない。したがって、どんなに美しい、歴史建築物がある場所でも、必ずこのフンの存在を忘れて歩いてはならない。後悔するのは自分だ。

しかし、これだけ犬のフンが転がっていると、いやがおうでも目に入ってしまう。そして、気付いた。これらは、日本の犬のそれとは異なり、実に完成されているのだ。まるで、乾燥風のドッグフードが栄養分だけ体内に吸収され、そのままきれいに余分なものが出てきたかのような質感だ。

ヨーロッパでは犬などのペットをペットとして扱わず、家族の一員として扱う場合が多い。従って食事もコントロールされている事が多い。その結果このような完全な形のフンが出てくるというわけだ。つまり雑食ではない犬のそれはきっとそれほど匂わないということになる。

 

フン一つに、ここまで想像してしまった自分に少し嫌気がさしたが、その想像が今ではせめてもの慰めとなった。ネスカフェまでの道のりはあと少し。到着するまでに足をひきづり、まだべったりと付いているだろうそれを完全に落とさなければならなかった。

 

 

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