第10章 ミゲルの村  PUEBLO

日曜日、ローラの家で目を覚ました。昨晩ディエゴが酔いつぶれ、ベッドを占領してしまったため、ソファでの起床だった。そして、いつもの様にローラの母親がコーヒーとトーストを用意してくれた。と、携帯メッセージ受信の音がした。

ピピー

「今日何するの?よかったら私のフィアンセの村に遊びにおいでよ。馬に乗れるよ!私の家も見においでよ。アンより」

マラガから車で30分のところにある、小さな村でアンは待っていた。「よくきたね!さ、入って入って、ここが私達の新居になるの。」

アンダルシア特有の白い壁の家が並ぶ小道の一角でアンは私を促した。そこは、コンクリート剥き出しの、つくりかけの家だった。「ここがキッチンになって、その隣が洗面所、そしてここは、、、」

そんなアンの説明に耳を傾けながら内心びくびくしていた。というのもそのつくりかけの家は、3匹の子豚の物語を連想させるような、レンガを無造作に積み上げただけの家だった。レンガとレンガの間は、子供の粘土細工のようにコンクリートで接着されていて、隙間から遠くの山が見渡せた。思わず聞きたくなった。「アンダルシアは地震がないの?」

「馬だよ、乗りなよ」と、目の前に用意された馬には、鞍が着いていなかった。「え、だって、足かける所ないけど、、」アンは笑いながら言った。「大丈夫だよ、ミゲルが持ち上げてくれるから」

「そうじゃなくって、、、」思わず言葉を飲み込んだ。ここはモンゴルか?と自問しながら言われるがままに馬の左側から持ち上げてもらったが、乗った瞬間に右側に半分ずり落ちた。がっしりと腕を握られて、難を逃れたが、このままだと必ず落馬する、、、と確信していた。

なんとか無事乗馬を済ませ、ミゲル行き付けのバーで一杯やることになった。好物のボケロネ・ビナグレ(イワシの酢漬け)を食べながらコーヒーを飲んでいると、アンが言った。「あそこに座っている4人はミゲルの兄弟だよ。」

さすが田舎はまだ子沢山なんだ、と感心しながら、アンお勧めのアイリッシュコーヒーをオーダーした。しばらくして、3人バーに入ってきた。「今入ってきた3人はミゲルの兄弟だよ」

またしばらくして、4人入ってきた。「あ、あの人達も兄弟だから。」

ミゲルの兄弟は15人。ふと先程おじゃましたミゲルの実家を思い出した。どう見ても1,2階含めて100平米に満たない家だった。

「さ、そろそろ帰ろうか。」重い腰をあげ、バーを出た。と、目の前に100匹以上のやぎの行列が、なぜかアスファルトの道を占領していた。ここは一体、、、、、、。スペインという国がまたもや分からなくなった私は、ほろ酔い気分で車の後部に腰を下ろし、その30秒後には眠りについていた。

 

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