第2章 ロンダ RONDA

何度もいやというほど頭を窓ガラスにぶつけ、痛さのあまり、眠り続けるのを断念した。すでに景色は眠る前に見た海岸ではなくなり、山に囲まれた、白い壁とオレンジの屋根がひときわ目立つ集落に変わっていた。ロンダだ。バスは3時間走り続けて、ロンダに到着した。

真夏日よりでもないのに、なぜかバスの運転手は冷房をガンガンと効かせていた。外人の温度感覚にムッとしながらも、やっと寒さから開放されると喜んでバスから飛び降りたが、ロンダは標高700m、震えるほど寒かった。

こんな寒い所で観光できるか!とシャツを二枚しか着てない私はサッサとロンダが誇る、最古の闘牛場を流し見し、たまりかねて近くのカフェに入った。

カフェコンレチェ(コーヒーと牛乳)を飲みながら、どうやって寒い中この小さな街で時間を潰せばいいのかと思案していた。曇空の中、太陽が時々顔を出すようになったころ、ロンダ一番の観光名物、プエンテヌエボ(新橋)に向かった。

カフェから1分程歩いた所で新橋を見つけたが、その規模の小ささと平凡さに、こんなものを見にわざわざ来たのか、とさらに気分が悪くなった。しかし皆が下を見ているので何気なしに見てみると、違う意味で気分が悪くなった。

そこは断崖で、下まで100m(実際は90m)はゆうにありそうな絶壁になっていた。一瞬の内に体内全ての血が酢になったかのように、体がすっぱくなった。

断崖を降りる小道にはビューポイントがあり、観光客が撮影をしている。勇んでカメラを持ってポイントに着いた。しかしそこからの景色は、カメラをゆうゆうと構えられるような所ではなかった。上には断崖絶壁の新橋、下には深い渓谷という、まるで中に放り出されたような空間だった。

日常からかけ離れた、自然と人間の造形美を目の前にして、ボキャブラリーの少ない私はそこを賞賛するに相応しい言葉も見つからないまま、しばらく見入っていた。と、同時に、この橋の建設にあたって何人の人が犠牲になったのだろう、、、と不謹慎な事を考えていた。

すぐに3D感覚がくずれ、二本足では立っていられなくなり、犬のように4つんばいになって、そろそろとそこを離れた。

さらに道を下り、下に到着すると、余裕が出来てきたのか、そのあまりにも美しすぎる景色に気付いた。

遠くの山が白く太陽の光を反射し、なだらかな丘を新緑の草が覆い、菜の花の黄色がアクセントのように景色を際立たせている。

偉大なる詩人リルケが絶賛したというが、この風景を目の前にしたら、誰でもが詩人になるだろう。

オールドシティに戻り、教会などを観光したが、自然のみなし得る断崖絶壁の風景を見た後には、人間の造ったものなどにはもうなにも感じなくなってしまっていた。

長いと思われたバス出発までの時間があっという間近づいた。もう一度あの天国のような風景を見たい、と帰りのバスを一つづらし、もう一度、新橋に向かって歩き出した。

 
次回はミハスです。お楽しみに。

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